糖尿病ドリンクは絶対悪
痩せる2023 ────
とんえぼOBが主体となり各自の体重、体格、筋肉量、健康診断の検査値、塩分摂取量の推定値、脂質/炭水化物の摂取量、食べた二郎系ラーメンの数と向き合い、将来にわたり健康を維持し、フレイル*1/サルコペニア*2の予防・健康寿命*3の延伸・介護予防・医療費の削減*4を目標とする独自の取り組みである。
しかし、痩せる2023の取り組みは蓋を開けてみれば月の二郎系ラーメン摂取量が10杯を超えていたり、過去最高体重を余裕で更新していたり、某有名カフェチェーンの○○ラテを致死量摂取していたりと、惨憺たる結果となっている。健康寿命の延伸はおろか生活習慣病に端を発する様々な動脈硬化性疾患、内臓疾患のリスクを増大させ、ひいては医療費の増大にもつながる可能性が生じ非常に憂慮すべき事態となっている。
したがってこの記事は、次年度の痩せる2024を迎えるにあたり、抜本的な改革──特に適切な栄養管理と生活習慣病予防についての普及はとんえぼ医療担当部としては急務であり、とんえぼ老人部Advent Calendar 2023の最終日の記事をそれに充てようとするものである。
ここでは、TM*2さん(仮名)の一例をもとに検討を行いたい。
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症例提示 29歳男性
主訴:体重の増加
現病歴:東北大学音ゲーサークル(以下:とんえぼ)に所属歴があり、X-3年に大学を卒業しOBとなった。学生時代はとんえぼ以外にも水泳部に所属し、定期的な運動習慣があった。バイト代と奨学金で食費を賄っており週半分程度は自炊を行っていた。卒業後も、同年はCOVID-19感染症のまん延による外出制限・自粛(以下:コロナ禍)の影響もあり、食事の多くを自炊で賄っていた。X年、コロナ禍の終わりを迎えるとともに自炊頻度の減少、体重の増加を認めた。とんえぼのその他の卒業生が痩せる2023を開催しており患者も参加していたが、体重が過去最高を更新し続けていることを主訴に受診した。
既往歴:特記すべき事項はない。
内服薬:定期内服薬はない。
家族歴:母方祖母、母方叔父が糖尿病(実話)
生活歴:機会飲酒で喫煙歴はない。糖分の入った飲料(以下:糖尿病ドリンク)を毎日飲用する。食事は外食、もしくはコンビニやスーパーで購入したもので済ませている。定期的な運動習慣はない。音楽ゲームは週1回程度。卒業して3年以上経つにも関わらずとんえぼの活動に出席するため仙台市へ定期的に訪問しており、そのたびに後輩と飲酒を伴う食事や二郎系ラーメンを食べている。
来院時現症:身長 179cm、BMI >25 kg/㎡。血圧 120/70mmHg。腹部は膨満しているが、軟で圧痛を認めない。
主要検査所見:一般血液検査で異常を認めない。生化学検査:尿酸 7.1 mg/dL(基準:7.0mg/dL)、空腹時血糖、HbA1cに異常を認めない。胸部X線写真に異常を認めない。心電図に異常を認めない。
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一般的な症例提示を済ませたところで、この症例のプロブレムリストを挙げ、アセスメントをしてみる。この症例では、プロブレムリストに病名だけを挙げるのではなく、患者が抱える具体的なプロブレムも盛り込むようにする。
プロブレムリスト
#1 高体重
#2 運動機会の減少
#3 糖尿病ドリンクの多飲
#4 高尿酸血症
アセスメント
#1 高体重
#2 運動機会の減少
#3 糖尿病ドリンクの多飲
本症例はBMI>25kg/㎡を超えており、肥満と考えられる*5。体重増加の原因となる明らかな内因性疾患は示唆されない。運動機会の減少、および糖尿病ドリンクの多飲歴から、摂取カロリーが消費カロリーを大きく上回ることによる単純性肥満と考えられる。
#4 高尿酸血症
これは普通に高いのでフォローが必要。直ちに内服を開始するものではない。
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ここまで一般的なアセスメントを行ったら、具体的な治療方針を立てる。本症例は「摂取カロリーが消費カロリーを大きく上回ることによる単純性肥満」が問題となっていそうである。
ならば、本症例はどれくらいを摂取カロリーに設定すればよいのだろうか?
適正の摂取カロリーを簡易的に計算する方法があるため、それを使用してみよう。
(適正の摂取カロリー)= 身長(m)^2 × 22 × (身体活動レベルに応じた係数)
この22という数字は標準体重のBMI(Body Mass Index)が22であることに基づく。
身体活動レベルに応じた係数は、以下を利用する。
低:基本的に座って過ごし、自主的に運動しないような生活
中:座位が中心だが、通勤や買い物などで適度に体を動かしている。軽い運動を行う。
高:立ち仕事や体を使う仕事をしている。または活発な運動習慣がある。
低の場合は25、中の場合は30、高の場合は35を代入する。注意するのは、あくまで成長しきった大人に使用する値であり、育ち盛りの若者にはあまり当てはまらないことと、性別や年齢によっても差があるということである。
本症例で身長=1.79m、身体活動レベルを35(非常にストレスの多い仕事をしているため)で計算すると、適正カロリーは2467kcalとなる。
しかし、減量を目標とした場合の摂取目標カロリーは、係数部分を25以下とするのが望ましく、その場合のカロリーは1762kcalとなる。
…………。
まあまあ大変だな。(実際病院食で1800kcalを見ると少なすぎて涙出る)
これだけではない。
単純性肥満においては、この約1800kcalのカロリー制限に加え、糖質・タンパク質・脂質のバランスも整える必要がある。全部糖質だったら意味ないよね。
具体的には
①糖質を50-60%、タンパク質を15-20%、残りを脂質で補うようにする
②単純糖質は制限(糖尿病ドリンクは飲まない)し、食物繊維を20g/日以上摂取する
③ビタミン・ミネラルを十分に摂取する(食物繊維との兼ね合いで野菜を食べる)
である。
実際に糖尿病の治療目的に入院する患者さんには糖尿病ドリンクは飲まないように指導するので、糖分の入った飲み物は悪、なのである。
さらに、減量もとにかく痩せればよい、というものではない。
「3-6か月で3%以上の減量」である。自分は覚えやすいので患者さんには「半年で5%体重を落としましょう」ということが多い。半年で5%なら頑張れそうな気がしてくる。
間違っても、巷でやせ薬として売られている「GLP-1受容体作動薬」は使用してはいけない。あれは糖尿病の治療薬であり、痩身作用を期待して内服することは認められていない。(副作用も結構きついよ)日本糖尿病学会も結構怒っているので興味ある人は一読してほしい。
もちろん、適度な運動を行うことも大事である。本患者は水泳部への所属歴があり、水泳に対するモチベーションは常にあることが聴取された。有酸素・無酸素運動の云々もあるかもしれないが、何も運動しないでYouTube見ているより少しでも泳いだほうがよっぽどマシである。
以上より、治療のプランとしては以下のように計画した。
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#1 高体重
#2 運動機会の減少
#3 糖尿病ドリンクの多飲
減量を期待し、摂取カロリー目標を1800kcalに設定し、糖質・タンパク質・脂質をバランスよく摂取するよう指導した。その際には、摂取カロリーを記録できるアプリ等の使用も提案した。また、糖尿病ドリンクの飲用は禁止とし、適度な運動習慣をつけるよう指導した。これらの生活習慣の改善により、半年で5%の体重減少を目標とした。
#4 高尿酸血症
上記のような生活習慣の改善に伴い、尿酸値も低下することが期待されるため、次年度の健康診断でフォローする方針とした。
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その後の経過がどうなるのか、それは患者次第である。
さあ始めよう、理論武装して臨む 痩せる2024を────
※注意
この記事で行われている医学的判断はあくまで参考です。自己診断で治療してはいけません(認められていません)。